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東京地方裁判所 平成12年(ワ)9570号 判決

原告 A

被告 株式会社結婚情報センター

右代表者代表取締役 鳩山栄一

右訴訟代理人弁護士 永沢徹

同 小林広樹

永沢徹訴訟復代理人弁護士 長浜周生

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一二年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の会員となった原告が、被告に対し、「結婚が決まるまで、お世話致します」との約定に反し原告に合った女性を紹介しなかったこと、原告の了解なく「交際希望申込カード」に原告の氏名、自宅の電話番号を載せることにより原告のプライバシーを侵害したこと等を理由に、債務不履行ないし不法行為に基づき一〇〇〇万円の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠等により認定した事実は当該証拠等を掲記した)

1  原告は昭和四一年八月二九日生まれの独身の男性であるが、平成九年九月初旬、被告の新聞広告を見て、被告に対し、ハガキを出した。原告は、数日後に、被告からパンフレット(甲一、以下「本件パンフレット」という)の送付を受け、また、詳しい説明をしたいので、一度本社へ遊びに来ませんかとの誘いを受け、同年九月一三日に被告の本社を訪れた。原告は、その際、被告の社員から、本件パンフレットをもとに、被告への入会を勧められた。原告は、被告に入会することとし、平成九年九月一三日、被告に対し、入会申込書を差し入れ、内金三〇〇〇円を支払い、同月一八日には、登録料と年会費(二年分)の残額三〇万一五〇〇円を支払い、被告の会員となった(以下「本件会員契約」という)。(甲一、二の1ないし3、一〇の1、2、一一、弁論の全趣旨)

2  本件パンフレットには、「あなたが求めるあなたにピッタリのお相手が見つかりますよう。あなたにとって結婚情報センターという会社自体も宝箱になりますよう。私たちも努力いたします。担当カウンセラーは、あなたの結婚が決まるまでお世話させていただきます。」との記載がある。原告は右記載文言を信じ、結婚が決まるまで女性を紹介してくれるものと思って、被告に入会した。(甲一、一一、原告本人)

ところで、被告の女性の紹介の方法は、原告に対し、毎月一回、一〇〇名近くの女性会員が登載された名簿を送り、この中から五名以内の女性を選択するという方法であった。そして、原告の選んだ女性が、原告との交際を望む場合には交際がはじまるというシステムであった。以上のようなシステムに基づき、被告は、平成九年一〇月一五日、同年一一月一五日、同年一二月一五日、同一〇年三月一五日、同年一〇月一五日、原告に対し、約一〇〇名の女性会員名簿を送ってきた。そこで、原告は、そのうち合計三〇名の女性について、被告を通じて、交際を希望するとの申込みをしたが、返事のない女性一四名、一度も電話をかけてこないで断った女性が一六名であった。

被告の送付してきた女性会員名簿の中には、現住所が福島県、北海道、中国・上海市など原告の住所とかけ離れた距離に居住する者や、年齢が原告とかけ離れた者も掲載されていた。

3  原告は、原告の交際申込みに対し、返事もしてこない女性会員がいたため、被告の担当カウンセラーに照会したが、「返事を出さなかった人には、返事を出すように言っておきました」との回答のみであった。また、原告は、被告を通じては交際する相手が見つからないことから、被告の担当カウンセラーに電話で相談したが、「テレノッツェ(自分専用のボックスナンバーをもって、伝言を録音したり、聴いたりするシステム)を利用すれば、今よりは出会いが広がるでしょう。録音する時は、明るい大きな声でしゃべったほうが相手にいい印象を与えるでしょう。」との助言を受けただけであった。原告は、テレノッツェを利用するには、また、追加会費を支払わねばならないので利用しなかった。(甲一一、原告、弁論の全趣旨)

4  被告は、原告から交際希望の申込みのあった女性に対し、原告との交際を希望するか否かの意思を確認する際、原告の氏名、電話番号を開示していた。

二  争点

1  被告の原告に対する女性の紹介方法は本件会員契約に違反するか。

(原告の主張)

(一) 被告の原告に対する女性の紹介方法は、無差別掲載の女性会員名簿(約一〇〇名)送付をするにとどまっており、原告にふさわしい相手が見つかるよう努力する義務を履行していない。

(二) また、被告は、原告の照会(交際を希望した女性会員から何らの返事がないこと等)に対し、適切な説明や助言をしなかった。

(被告の反論)

(一) 本件会員契約において被告が原告に対し負っている義務は、適性配偶者候補の情報、データの提供及びガイダンスの付与である。すなわち、被告のシステムは、男女の会員の自由な意思に基づく交際を重視するもので、被告は会員への情報提供を中心とするサービスを行い、会員がこの情報を利用して他の会員と自由に面談(お見合い)、交際して結婚に至ることを予定している。したがって、被告は、会員が他の会員と確実にお見合いできることや、交際、結婚できることを請け負うものではない。そもそも、男女の自由意思が前提となる結婚や、前段階となる交際、お見合いについて、これを確実に実現することなど不可能であって、その確実な実現を保障することなどあり得ない。そして、被告は、原告に対し、情報提供やアドバイス授与を原告に対して行うことにより、本件会員契約上の義務を履行した。

(二) 原告は「全くの返事なし」の会員に対する被告のフォローが足りない等と主張するが、両性の合意である結婚を最終目的とする業務の性質上、交際申込先に返事を強制することは不相当である。返事がないこと自体が黙示の拒絶であることが通常である。

2  被告の担当カウンセラーは、原告に対し適切なアドバイスをしたか。

(原告の主張)

原告は、被告を通じて、交際相手が見つからないため、被告の担当カウンセラーに対し、全く返事のない女性会員に対し適切な指導がされているのか、交際相手が見つからないことに対しどのように対処すべきか等について相談したが、何もしてくれなかった。

(被告の反論)

原告の主張は争う。なお、原告は、「全くの返事なし会員」に対する被告の対応を開示するよう求めているが、原被告間における債務不履行が争われている本件においては、原告に対し右対応を開示する必要はない。なぜなら、被告は、原告に対し、「返事をしない他会員を除名処分にする義務」を負っていないからである。

3  原告が交際を申込んだ女性会員に対し、原告の氏名、電話番号を開示したことは、原告のプライバシーを侵害したといえるか。

(原告の主張)

被告は、原告の承諾なく、原告が交際を申込んだ女性会員に対し、原告の氏名、電話番号を開示したものであり、これは原告のプライバシーをみだりに侵害したものといえる。

(被告の反論)

入会希望者は、入会申込時に、相手方に送付するパートナー紹介書(甲三)の元になる情報を無料相性診断身上書(乙九)に記載するが、右身上書には、「あなたが交際申込を送った相手からの受付希望電話番号」を記入する部分があり、これに記入した場合に限り交際申込先に電話番号が通知されるシステムになっているところ、原告は電話番号を記入したと思われる。したがって、原告は、交際申込先への電話番号通知につき、事前に明示ないし黙示の同意をしていた。また、原告が電話番号の開示につき同意している以上、同時に氏名の開示についても黙示に同意していたとみるのが、社会通念上相当である。

第三争点に対する判断

一  争点1(被告の紹介方法等)について

1  本件会員契約の内容

被告の紹介方法が債務不履行に当たるか否かを検討するに当たっては、その前提として、本件会員契約の内容を確定しておく必要がある。

証拠(甲二の1、2、三、四、一一、乙一、二、七の1、2、証人新堂、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)、(二)の各事実が認められる。

(一) 本件会員契約の内容は、株式会社結婚情報センター会員規約(以下「本件規約」という)で定められているところ、原告は、本件会員契約の締結の際ないしはその直後ころ、被告から、本件規約を受領した。原告は、本件規約を受領後、本件規約の内容に異議を述べず、被告から本件規約に従ったサービスの提供を受けていた。そうだとすると、原被告間の本件会員契約の内容は、本件規約で規定されているということになる。

(二) 本件規約の内容の概略は、次のとおりである。

(1)  当センター(被告を指す)の目的は、当センター会員が、自己に最も適合性のある配偶者選択を行うに当たり、適性配偶者候補の情報、データを提供し、ガイダンスを与えることにある(本件規約二条)。

(2)  会員期間は入会申込誓約書に記載された期間(二年間)とする(同五条)。

(3)  毎月一〇日にあなた(原告を指す)にふさわしいパートナーを三名以上まとめて紹介致します。同時にあなたに先方からアプローチが届きます(同一〇条)。

右認定事実によれば、本件会員契約において、被告は、原告に対し、適性配偶者候補の情報、データの提供及びガイダンスを付与する義務を負っている。すなわち、被告は、原告に対し、情報提供を中心とするサービスを行い、原告は右情報を利用して他の会員と自由に面談(お見合い)、交際して結婚に至ることを予定している。そして、結婚を前提とする交際は、人の一生を左右する重大な事柄であり、本来両者の自由意思に任されていることを勘案すると、被告において、会員に対し、他の会員と確実にお見合いできることや、交際、結婚できることまでが債務の内容になっているということはできない。

2  債務不履行の事実の有無

(一) 原告は、被告の紹介方法は、無差別掲載の女性会員名簿(約一〇〇名)送付をするにとどまっており、原告にふさわしい相手が見つかるよう努力する義務を履行していないと主張する。そして、原告は、本人尋問のなかで、原告と年齢的に近く、また、住所も近い女性を一〇ないし一五名程度を登載した名簿を送付してくれば、交際に入れる確率が高まり、そのような方法をとるべきであったと供述する。

(二)(1)  確かに、証拠(甲五の1)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 被告は原告に対し一度に一〇〇名近い女性会員の登載された会員名簿を送ってきたこと、(2) 右名簿中には、年齢が原告より一二歳も下であったり、五歳年上であったり、住所が北海道や中国の上海市など遠方の者がいたり、離婚歴、子供がいる者が含まれていたことが認められる。

(2)  他方、証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告に提出した「パートナー紹介書(甲三)」の「あなたが求めるパートナー像」について、誠実で優しい、思いやりのある方を希望するとしており、相手方の年齢、住所、既婚の有無等については特段の記載をしていないことが認められる。

(三) 問題は、前記(二)(1) の事実をもって債務不履行といえるかという点である。そこで、検討するに、前記争いのない事実等2によれば、原告は被告から送付されてきた女性会員名簿から五名以内の女性会員を選択し、交際の申込みをしていること、被告としては、年齢に幅を持たせ、また、遠距離の者も含ませることにより、原告がより多くの女性と出会う機会を作るようにしたともいえることなどを考慮すると、原告の望まない者が当初から含まれていたからといって、直ちに債務不履行ということは困難である。また、原告の主張するように、もう少し人数を絞り、厳選した女性会員を紹介すべきであるとの考えには、一応の合理性はあるが、しかし、これも被告の営業政策の裁量の範囲内といえ、会員でない女性、結婚する意思のない女性を紹介していると認められない(証人新堂、弁論の全趣旨)本件にあっては、被告の紹介方法に債務不履行の事実があったとまではいえない。

二  争点2(被告の担当カウンセラーの対応)について

1  返事もしてこない女性会員に対する照会

前記争いのない事実等3の事実に証拠(甲一一、原告本人)及び弁論の全趣旨を併せ考慮すると、(一)原告は、原告の交際申込みに対し、返事もしてこない女性会員がいたため、被告の担当アドバイザーである猪瀬明美(以下「猪瀬」という)に対し、このような女性会員について被告の方から適切な指導がされているのかを照会したこと、(二)それに対し、猪瀬は、概ね「返事を出さなかった人には、返事を出すように言っておきました」と回答したことが認められる。

確かに、右猪瀬の対応は、やや事務的な面があり、女性会員との交際に糸口がつかめないでやや焦っていた原告の気持を和らげる対応があってもよかったと思われないではないが、だからといって、右対応が債務不履行を構成するとまでは言い難い。

2  交際相手が見つからないことに対する相談

前記争いのない事実等3の事実に証拠(甲一一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、(一)原告は、被告を通じて交際相手が見つからないため、猪瀬に対し対処方法を相談したこと、(二)猪瀬は、原告に対し、概ね「テレノッツェを利用すれば、今よりは出会いが広がるでしょう。録音する時は、明るい大きな声でしゃべったほうが相手にいい印象を与えるでしょう。」との助言を与えたこと、(三)原告はテレノッツェを利用するには追加料金がいるため、利用しなかったことが認められる。

以上によれば、右猪瀬の対応に債務不履行と評価すべき点は認められない。

3  その他

原告は、被告の態度、担当カウンセラーの対応について、前記1、2以外にも縷々不満を主張するが、債務不履行と評価しうるまでの主張、証拠は見出すことができない。

三  争点3(プライバシー侵害)について

1  前記争いのない事実等4によれば、被告は、原告から交際希望の申込みのあった女性に対し、原告との交際を希望するか否かの意思を確認する際、原告の氏名、電話番号を開示していたことは当事者間に争いがない。

2  そこで、問題は、原告が開示することについて事前に承諾していたか否かという点である。以下、検討する。

証拠(甲三、六、乙二、九、証人新堂)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)ないし(三)の各事実が認められる。

(一) 被告に入会を希望する者は、入会申込時に、相手方に送付するパートナー紹介書(甲三)の元になる情報を無料相性診断身上書(乙九)に記載することになっている。右身上書の右下欄には、「あなたが交際申込を送った相手からの受付希望電話番号」を記入する部分があり、これに記入した場合に限り交際申込先に電話番号が通知されるシステムになっている。原告は、右身上書に、電話番号を記載したと推認できる。

(二) 原告は、本件会員契約締結直後ころ、被告から、「パートナー紹介システムについてのご案内」(乙二)を受領している。右案内書には、「前回お選びになった五名の方々へ、あなたの電話番号が記載されたカラー写真つきの交際申込書が、センターから郵送されます。」と記載されている。

(三) 原告は、本件提訴までの間、被告から何度か交際申込先から返送されたカード(甲六)を受領し、右カードに原告の氏名、電話番号が記載されていることを認識しながら、これに異議を述べることなく、継続して以後も被告のパートナー紹介システムを利用している。

右認定事実によれば、原告は、被告が原告から交際希望の申込みのあった女性に対し、原告の電話番号を開示することに承諾を与えたと認めるのが相当である。

次に、原告の氏名であるが、前記のとおり、原告において電話番号の開示を認めている以上、特段の事情のない限り、氏名についても開示することを承諾していると解するのが相当である。なぜなら、通常、自己が特定されると困る者は、電話番号とともに氏名をも開示しないようにするであろうし、一方のみ開示することは一般的には考えにくいからである。これを本件についてみるに、本件全証拠を検討するも、前記(三)のような事情こそあれ(承諾を窺わせる事情)、氏名開示を承諾していないと認めるに足りる特段の事情は認められない。

3  以上によれば、原告のプライバシー侵害を理由とする損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は理由がないので、これを棄却することにする。

(裁判官 難波孝一)

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